竹林の風に誘われ お抹茶のぬくもりが心を癒す[報国寺×祇園辻利]
「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星と評され、鎌倉を代表する古刹「報国寺(ほうこくじ)」。竹寺として国内外から注目を集める寺院を、元アナウンサーで、現在フラワーアーティストとして活躍する鎌倉在住の前田有紀さんがナビゲートします。訪れる人たちを魅了するポイントや何度も訪れたくなる理由についてお聞きしました。
Summary
✓フラワーアーティスト・前田有紀さんに聞く報国寺の魅力
✓2000本の孟宗竹、苔の絨毯、季節を映す花々…。見どころ満載の庭園
✓竹庭を眺められる特等席で、祇園辻利のお抹茶を味わいひと休み
フラワーアーティスト・前田有紀さんに聞く報国寺の魅力
― 前田さんはテレビ局を退社後、ガーデニングを学ぶため、イギリスに留学し、現在はフラワーブランドの代表を務めています。結婚後、子育ての環境として理想的な鎌倉に移り住み、ご縁があって報国寺でお花の監修を手掛けるようになりました。
― 報国寺は足利尊氏の祖父・家時が開基となり、1334年(建武元年)に建てられた臨済宗建長寺派の寺院です。訪れる多くの人のお目当ては、約2000本の孟宗竹が織り成すお庭ですが、実は、この有名な竹林以外にも見どころがたくさんあります。おすすめの楽しみ方を前田さんに教えていただきました。
「まず山門をくぐると、緑が鮮やかな苔や庭木、玉砂利、飛び石など手入れが行き届きた枯山水が訪れる人を迎えてくれます。ここは、桜や紅葉など一年を通して様々な表情を見ることができ、最近では苔が好きな人もたくさん訪れています」
― 本尊・釈迦如来坐像が祀られている本堂でお参りしたら、左手の受付で拝観券を買い、さっそく竹の庭へ。茶席でひと休みするなら、抹茶券も一緒に購入しておきましょう。
2000本の孟宗竹、苔の絨毯、季節を映す花々…。見どころ満載の庭園
― 報国寺の境内の魅力について、ポイントはどんなところでしょうか?
「報国寺では、いつ訪れてもきれいで、気持ちよく見てもらえるよう、職員さんや植木屋さんが一緒になって、開門前からお庭のお掃除やお手入れをしています。また、自然の風合いや鎌倉らしい無骨さを活かしながら、どの角度から見ても楽しめるようにしています。ありのままの自然を利用した演出やおもてなしの心が魅力の一つだと思います」
― 順路に沿って歩きながら見ていくと、植栽の種類の豊富さ、枝ぶりや高低のバランス、石碑・石仏・灯篭との調和など、趣向が凝らされているのがわかりますね。
「鎌倉らしい地形や植物の調和、景観のバランスが考えられています。お花が咲く時期や天候でお庭の見え方が変わり、見どころが多く楽しめると思います」
― 境内を歩いていると、所々にきれいに苔むしたエリアがありますね。
「境内には苔エリアが複数あり、自然環境や他の樹種とのバランスが考えられた配置になっています。よく見ると何種類か苔があるので、自分好みのものを探してみるのも楽しみ方の一つだと思います」
― 前田さんおすすめの苔エリアはありますか?
「私のおすすめは、山門越しに見る参道です。右手は石段や高い木々があり“動”を感じることができ、左手は苔の絨毯が広がる“静”を感じる配置になっています。雨上がりは特に苔のグリーンがつやつやと色濃くなりとてもきれいです」
― それでは、いよいよ竹林へと入っていきましょう。竹林のおすすめの楽しみ方を教えていただけますか?
「そうですね、訪れる時間帯は西側の山に太陽が隠れる午後よりも、午前中がおすすめです!竹の隙間から木漏れ日が動き、竹林に敷かれた竹の葉の絨毯に影を映す美しい情景に出会えます。また、竹の間を吹き抜ける風を感じて、葉がこすれるサヤサヤという音や鳥のさえずりにも耳を傾けてほしいです」
― 前田さんはお花の観点で、お庭作りに参加されているとのことですが…。
「都内でフラワーショップを経営していて、切り花の世界に身を置いているのですが、イギリス留学時はガーデニングの修業をしていました。現在、報国寺のお庭には多くの樹種がありますが、周囲の木々の高さや背景との調和を考えつつ、時期によってどんな花を咲かせるのがいいかご提案しています。また、最近では拝観される方をお迎えする受付の横に、庭師さんとともに季節のお花を飾るスペースを設置しました。季節に合ったお花で、訪れるお客様をおもてなしできればと考えています。季節ごとに何度も訪れて、お庭とお花を楽しんでいただけたら嬉しいです」
竹庭を眺められる特等席で、祇園辻利のお抹茶を味わいひと休み
― 次に前田さんと向かったのは竹の庭の奥にある休耕庵という茶席です。
「竹林を囲むように配されている休耕庵の茶席では、滝の音や鳥の鳴き声を聞きながらお抹茶を楽しめます。ぜひ鎌倉散策の途中に立ち寄って、心穏やかなひと時を過ごしていただきたいです」
― いただけるのはお薄で点てられたお抹茶と干菓子。干菓子は季節によって変わり、取材日は竹と足利氏の家紋をかたどった落雁でした。先々代の住職が竹の庭を墨絵で描いた懐紙は、記念にお持ち帰りできます。
― 休耕庵でいただけるお抹茶が有名な祇園辻利のものであることは、あまり知られていないかもしれません。抹茶は京都「祇園辻利(ぎおんつじり)」から取り寄せています。祇園辻利といえば、抹茶スイーツで知られる「茶寮都路里(さりょうつじり)」を展開し、近年はドーナツショップやカフェとのコラボで話題を集めていますが、1860年創業という歴史ある宇治茶の名家の一つです。
― 祇園辻利のお抹茶について、ご紹介いただけますか?
「祇園辻利の宇治抹茶は、約4ミクロン(4/1000mm)まで細かく、石臼でじっくりと挽くのが特徴です。そのため1時間で生産できるのはわずか40g。色や泡立ち、風味、旨みを追求した本物の抹茶は、石臼挽きでないとできません。また、『この家元の味、この店の味』と決められた“味筋”を安定して提供できるのは、宇治茶専門店だからこそなのではないでしょうか。農作物である茶葉は、天候によって味が左右されるため、多種ある茶葉の中から、合組(ごうぐみ)という調合を行い、各家元や各店に代々引き継がれる味を守っています。休耕庵の抹茶は、観光の方でも飲みやすいように、甘みと旨みのバランスを優先した報国寺オリジナルのブレンドをご用意しています。泡がきめ細やかで、豊かな香り、甘み、心地よい渋みを感じる抹茶に仕上がっています」
― 休耕庵のお抹茶を召し上がって、いかがでしたか?
「熟練のスタッフが一人前ずつ茶筅で丁寧に点ててくださいました。季節によって、お湯の温度や茶碗を変えるなど、細かい気配りが随所に見られ、おもてなしの心がおいしさにつながっていると感じました。お客様へのおもてなしが詰まったお抹茶を、竹林を眺める非日常の空間の中で、作法を求められることなく気軽にいただける…、これが揃ってこそ五感が解放されるような癒やしの時間になるのだと思います」
祇園辻利の歴史やこだわりはこちらからも▷https://www.giontsujiri.co.jp/<外部リンク>
― 山門を入った瞬間から一服のお抹茶までも、隅々におもてなしの心が詰まった報国寺。国内外から多くの観光客が訪れる人気スポットですが、取材時も境内にはゴミひとつ落ちておらず、気持ちよく参拝ができるように徹底した心掛けがされていることがわかりました。
都心から気軽に行けて、ホスピタリティに裏付けされた癒やしの時間を過ごせる鎌倉 報国寺への旅。前田さんのおすすめでもある竹林の木漏れ日がきれいな午前中や、苔や花々が艶めく雨上がりに訪れてみてはいかがでしょうか。
住所 | 神奈川県鎌倉市浄明寺2-7-4 |
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電話 | 0467-22-0762 |
拝観時間 | 9時00分~16時00分(抹茶の受付は15時30分まで) |
定休日 | 無休、年末年始 |
拝観料 | 高校生以上:400円 小・中学生:200円 *抹茶券(干菓子付):600円 |
HP | https://houkokuji.or.jp/<外部リンク> |
アクセス | JR鎌倉駅東口より京浜急行バス鎌倉霊園正面前太刀洗行き/金沢八景駅行き/ハイランド循環で10分、浄明寺より徒歩2分 |
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